制度・提言

ラクターゼの市販化に向けて 〜 スイッチOTC化の提言

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ラクターゼの使用実態と副作用

乳糖不耐症の症状を抑える消化酵素「ラクターゼ」

乳糖不耐症は、乳糖を分解する酵素である「ラクターゼ」を腸内で生み出す力が衰えることによって発症します。そのため、この酵素(ラクターゼ)を体外からタブレットなどのかたちで補うことによって、症状を大きく抑えることができます。

乳糖(ラクトース)→ガラクトース+グルコースの加水分解

▶︎参考:「乳糖不耐症の対処法 − 「大人の乳糖不耐症」の対策

ラクターゼは日本では「処方薬」に分類されている

しかし、他のページにも書いたように、日本国内ではラクターゼ製剤は処方薬(医療用医薬品)に分類されているため、普通の薬局では手に入れることができません。これは、病院に行ってお医者さんの診断を受け、処方箋をもらってはじめて購入することができるということを意味します

とはいえ、乳糖不耐症の診断をしてくれる病院は必ずしも多くはありませんし、診断の方法も「問診」と「牛乳摂取をやめた場合の反応の観察」が中心になります。中には「乳糖負荷試験」として「呼気水素ガス濃度検査」をしてくれる病院もありますが、全ての医療機関でこの検査を実施しているわけではありません1


当然ですが、医療機関を受診すると診療や処方にお金がかかります。また、乳糖不耐症は基本的には「消化不良」のため、重症化しにくいのが特徴です。

当事者の感覚としては、体調不良の原因が乳糖と特定できているのであれば、わざわざ病院で診断してもらう必要はないのではないか、と思っています(ただし、皮膚や呼吸器に症状が出ている場合は牛乳アレルギーの可能性が高いため、診断を受ける必要があります。また、乳幼児の場合は自己診断は危険です。必ず医療機関を受診しましょう)。

さらに困ったことに、病院で診断をもらえたとしても、健康な成人はラクターゼの処方対象に該当しない可能性があります。これは、現在日本で販売されているラクターゼ製剤が全て、「乳児」または「経口・経管で流動食・栄養食を摂っている人」を処方の対象としているためです。

効果・効能(添付文書全文)

1.乳児の乳糖不耐により生ずる消化不良の改善。(…)

2.経管栄養食、経口流動食など摂取時の乳糖不耐により生ずる下痢などの改善。

ミルラクト細粒50% 添付文書 (ガランターゼ散50%、カラシミーゼ散50%、オリザチーム顆粒も同内容)

医薬品の「添付文書」はその内容で承認を受けたということを示しているので、これを厳密に考えれば、健康な成人はラクターゼ製剤の処方対象外ということになります。特に「禁忌」の項目に「成人を除く」などの記載があるわけでもないため、実際には、ほとんどの現場でより柔軟な対応がなされていると思われますが2その場合も大人は本来の対象ではありません3

いずれにしても、日本国内でラクターゼ製剤を入手するのは、なかなかハードルが高いと言えます。

▶︎処方箋を必要としないラクターゼの個人輸入の方法についてはこちら

ラクターゼは世界中で市販され、安全性は世界的に確立されている

処方薬に指定されているということは、ラクターゼ製剤は、危険な薬品なのでしょうか。そうではありません。ラクターゼは世界中で市販されており、その安全性は世界的に確立されています。

イツの薬局で市販されているラクターゼ(乳糖分解酵素)
(画像:ドイツの薬局で市販されているラクターゼ)

北米やEU諸国など、ほとんどの先進国では、薬局に行くだけで、医師の診断を受けることなく、ラクターゼを簡単に購入することができます。

このことは、これらの国では、ラクターゼは「市販薬(一般用医薬品)」、すなわち、「副作用や他の薬との併用などに関して注意は必要であるものの、医師による処方が必要なレベルではない医薬品」と認められているということを意味します。

そもそもラクターゼはA.オリゼーなどの「麹菌」が産生するものが主流で、その本質は「消化酵素」です。ある研究では、次のように言われています。

日本では,A. oryzae は麹菌とも称され,みそ,しょうゆなどの発酵食品に利用され,非常になじみの深いものである。著者らが調べたところ,みそ,ヨーグルトなどの食品中にラクターゼ活性が認められており,長い間人間が摂食しており,安全性については危惧するものでない。

後藤真孝(2012)「カビ由来 ラクターゼについて」

A. オリゼーの安全性については、東アジアでの食実態とともに、海外の論文でもたびたび取り上げられています4使用に際して一切の注意が不要というわけではありませんが、少なくとも処方薬(医療用医薬品)に区分する必要は感じられません。

実際のところ、副作用はどうなの?

しかし、一度処方薬に分類されたからには、医師の判断が必要とされた適正な理由があるはずです。実際のところラクターゼ製剤の副作用はどうなっているのでしょうか。

これについて、日本の医薬品の承認審査を担当しているPMDA(医薬品医療機器総合機構)のサイトで調べたところ、興味深い結果を見つけることができました。以下の引用は、1972年に日本で最初に販売が開始されたラクターゼ製剤である「ガランターゼ散50%」の副作用についての記述です。

副作用等発現状況の概要

乳児 総症例数6,218例中24例(0.39%)26件の副作用が報告されている.主な副作用は発疹4件(0.06%),腹部膨満感4件(0.06%),嘔吐3件(0.05%)等であった.(承認時〜1976年4月までの集計)

成人 総症例数395例中4例(1.01%)4件の副作用が報告されている.副作用の内訳は便秘3件(0.76%),発疹1件(0.25%)であった.(効能追加承認時)

重要な副作用

ショック(頻度不明)ショック症状,四肢冷感,顔面蒼白,チアノーゼ,下痢,腹部膨満,嘔吐等の症状があらわれることがあるので,このような症状があらわれた場合には直ちに中止すること.

「ガランターゼ散50%」の医療用医薬品情報ページ(PMDA)

いかがでしょうか。腹部膨満感・嘔吐に関しては、乳糖不耐症の通常の症状と重なっており、発生の割合も非常に小さいことから、無視しても良いと思われます。便秘は、おそらく牛乳の消化がよくなりすぎたことによるものですが、これも健康に対する影響は比較的小さいと言えるでしょう。

それでは、乳幼児で0.06%、成人で0.25%の割合で生じるという「発疹」、および頻度不明(おそらくは0.06%以下)の「ショック」については、どのように考えればよいのでしょうか5。これに関して、日本での臨床研究は1970年代前半で完全に止まっているため、英語圏の論文を調べてみたところ、ごくわずかながらいくつかの症例報告がヒットしました6

これらを通じた結論として、「乳糖分解酵素であるラクターゼ(またはラクターゼ製剤に混入しているその他の物質)に対してアレルギー反応が生じるケースは報告されているが、その確率は極めて低い」ということが言えるかと思います。少なくとも、リスクの大きさとしては、すでに市販されている医薬品と何ら変わらないのではないかと思います7

「大人の乳糖不耐症」が大きな問題になっている現在、成人に対して、ラクターゼ製剤の市販薬(一般用医薬品)化を妨げるに足る医学的根拠は存在しないと考えます8

提言:ラクターゼ製剤のスイッチOTC医薬品化(市販薬化)

乳糖不耐症協会では、ラクターゼ製剤が広く一般にアクセス可能になることを目指し、また海外での使用実態や副作用の発生状況などをもとに、ラクターゼ製剤の「スイッチOTC化」を求めます

「OTC医薬品」とは、薬局等で購入できる、いわゆる「市販薬」のことで「スイッチ医薬品化」とは、処方箋が必要だった「処方薬」が、市販薬に切り替えられることを意味します。

鎮痛解熱薬である「イブプロフェン」(1985年OTC化)や、頭痛・生理痛薬としてよく使われている「ロキソニン」(2011年OTC化)も、もともとは処方薬だったものが市販薬化されたものになっています。

この記事で見てきたように、ラクターゼは海外で広く市販されており、また、副作用についても一般の市販薬と変わらないものであることは明らかです。乳糖不耐症協会では、ラクターゼが一刻も早くOTC医薬品となり、誰でも簡単に購入できるようになることで、国内でも3千万人と言われる乳糖不耐症者の生活の質が、少しでも向上する未来を目指します。

注釈

  1. 病院での検査内容については、MEDLEY「乳糖不耐症の検査」をご参照ください(最終閲覧 2019年10月)
  2. ただし、筆者は医療関係者ではないため、実際の医療現場での処方の慣習についてはよく分かりません。処方の実態について詳しい方がいらっしゃいましたら、お問い合わせフォームより情報を教えていただけると幸いです
  3. ガランターゼ散50%の「医薬品インタビューフォーム」(※リンクをクリックするとPDFがダウンロードされます) I-1. 「開発の経緯」には、「乳児にとっては乳糖が唯一の糖質であることから消化酵素としての乳糖分解酵素の開発が望まれていた」とあり、処方対象としては第一に乳児が想定されていたということがわかります。販売開始から50年近く経っても健康な成人が処方対象に入っていないのは、「乳糖不耐症が大人の健康問題でもある」ということが社会の中で正しく認知されていないことを示しています
  4. Barbesgaard [et al.] (1992) On the safety of Aspergillus oryzae: a review など
  5. この問題に関しては、ラクターゼ製剤の市場規模が桁違いに大きい英語圏でも、英語圏でも「副作用は全く確認されていない」とするサイトと「ごく稀にアレルギー症状を引き起こすことがある」とするサイトが並存しているなど、情報が錯綜しているのが現状です
  6. 具体的には、ラクターゼの錠剤を服用後にアレルギー症状を発症した35歳男性の症例(1996)、薬剤師として調剤中にラクターゼの粉末を浴び続けたことで皮膚や気管に症状が出るようになった31歳女性の症例(2007)、さらに、ラクターゼに対する抗体の形成が確認された38歳女性の症例(2016)など
  7. 日本でのラクターゼ製剤が最初に承認された当時(1971年)の状況としては、主に乳児が処方対象として想定されていたために、ショック症状の可能性が、ラクターゼがあくまで処方薬(医療用医薬品)として承認されることの大きな要因になったのかもしれません
  8. なお、その他、気を付ける必要があることとして、糖尿病を抱えている人の場合、食後の血糖値が上がりやすくなるという点が挙げられます。これは、ラクターゼの服用によって乳糖の分解が促進されることによります
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